日ごろ、なにげなく使っている「生ビール」という言葉。
「のどが渇いたときに冷えた生ビールをゴクゴク飲むのが最高!」
という方は少なくないでしょう。
では、いったい「生ビール」のなにがどう「生」なのでしょうか?
ジョッキに入って出てくれば「生」なのか?
いやいや、缶ビールにも「生」はあるしなぁ…
わけがわかりません。
いったいどういうことなのでしょうか。
今回は「生ビール」について考えてみたいと思います。
「生ビール」について
ビールの製造方法
ビール製造の流れをかんたんに書くと、
仕込み釜で麦汁(ビールのもとになる汁)をつくる
↓
麦汁のろ過
↓
ホップとともに煮沸
↓
冷却
↓
発酵・貯蔵
↓
ビールのろ過・殺菌
↓
容器に詰めて出荷
このようになります。
この工程の中での「ろ過・殺菌」の部分をどのように行うか、がポイントです。
「生ビール」の定義
「酵母」で麦汁を発酵させてつくるのが「ビール」。
「酵母」がビールの中に残っていると、糖分があれば発酵が続きますし、ビールに濁りが出ます。
それを取り除くための工程が「ろ過」。
ろ過をすることで、透明度の高いビールになります。
ろ過したビールは殺菌の目的で熱処理されるのですが、この「熱処理」を行わないものが日本における「生ビール」の定義です。
生ビールは、大きく2種類に分けることができます。
小さな醸造所などでは、ろ過や熱処理を行わないビールがつくられたりしています。
これが一つ目の「生ビール」。
ろ過や熱処理をしないので、ビールそのものの特徴を損なわないで存分に味わうことができます。
ただし、酵母が生きているので風味が変化しますし、長期保存することができません。
もう一つは、いわゆる大手ビールメーカーの「生ビール」。
こちらも熱処理はしていませんが、長期保存することができます。
その秘密は「ろ過」。
ろ過をする際に非常に目の細かいフィルターを使うことで、殺菌ではなく「除菌」をします。
熱を加えずに酵母などを除去するので、「生」ということ。
細かいフィルターでろ過を行うと、除菌とともにビール本来の成分も一部除去されてしまいます。
そして、ろ過という方法で「生ビール」をつくっているのは、実は日本以外にはほとんどありません。
また、樽も缶も瓶も同じ銘柄ならば中身はすべて同じです。
「熱処理」をすると、熱をかけるので品質に悪影響では?
こういったイメージはぬぐえないと思います。
でも、品質に影響が非常に少ない殺菌方法があるんです。
それが「低温殺菌」という方法。
「60℃でも時間をかけると多くの菌が死滅する」という原理を応用したのが「低温殺菌」です。
100℃に一気に熱すれば、菌は死滅しますがタンパク質が固まるため品質に影響が出ます。
でも、60℃ならタンパク質が固まらず、品質に影響がほとんど出ません。
この方法が発見されたことで、今日のビールの発展があるといえます。
「生」にこだわる国民性
日本人は特に「生」にこだわります。
「生の方が新鮮である」とか「熱を通すと品質が劣化する」といった考え方が強いのが、日本人の国民性。
でも、ビールに関してはこれが当てはまらなかったりするのです。
熱処理したビールとそうでないビールを飲み比べた場合「味や香りに差がある」と感じ取れる方は、実際はほとんどいません。
また、「新鮮」といっても日本の「生」ビールの賞味期限は9か月ほどあります。
これをどうとらえるか。
正直なところ、大手メーカーが一般的に販売している「生」ビールに関しては、イメージ戦略の部分が大きく占めているのは否めないです。
日本では「熱処理」の有無が「生ビール」と呼べるかどうかの違いになっています。
しかし、外国では少し事情が違います。
熱処理の有無ではなく、樽で提供するものを「生ビール」と呼ぶ国。
(ドイツ・イギリス・イタリアなど)
熱処理していない樽のビールだけを「生ビール」と認める国。
(カナダ・メキシコなど)
上記の国では瓶や缶のビールは熱処理をしていなくても「生ビール」と名乗ることはできません。
しかしアメリカでは、樽のビール以外にも熱処理していない缶や瓶ビールも「生ビール」と認められます。
このように、国によって「生ビール」の定義も変わります。
「生ビール」の本当の意味合い
ここまで、日本における2つの「生ビール」について説明してきました。
意味合いにおいては、どちらも間違いなく「生ビール」。
でも、どちらも同じか?と問われると、はっきりと違いがあります。
良いとか悪いとかではなく、「違い」があるということです。
「生ビールは鮮度が大切」という言葉がぴったり当てはまるのは、いったいどちらのビールなのか。
みなさんはどう思われますでしょうか?