「熱燗(あつかん)」よりも「冷酒(れいしゅ)」が飲みたくなる季節になってきました。
冷酒にもいろいろあるのですが、冷やして飲むのに特に向いているのが「生」とラベルに書かれた日本酒。
実は、日本酒の「生」には何種類かあるんです。
そのあたりを今回は掘り下げてみたいと思います。
日本酒の「生」について
日本酒の製造工程
一般的な日本酒の製造工程を見てみると、
精米
↓
洗米
↓
浸漬
↓
蒸米
↓
製麹
↓
酒母造り
↓
醪(もろみ)造り
↓
発酵
↓
上槽(搾り)
↓火入れ
貯蔵
↓火入れ
出荷
このようになります(それぞれの工程の説明は今回は省略します)。
この中で、もろみをしぼった後と出荷の前に2度「火入れ」という工程があります。
「火入れ」とは「殺菌と酒質を安定させる目的で熱をかける」という工程なのですが、「火入れ」をしない、もしくは1回しかしないものが「生」の日本酒になります。
3種類の「生」
ひとまとめに「生の日本酒」といっていますが、ラベルに「生」と書いてある日本酒は3種類あります。
「火入れ」を一度もしないものを「生酒(なまざけ、きざけ)」といいます。
火入れを一度もしていないので、つくりたてのフレッシュな風味を存分に楽しめるものになります。
しぼったあと「火入れ」をせず貯蔵し、出荷前に「火入れ」をおこなったものが「生貯蔵酒(なまちょぞうしゅ)」。
軽めで飲みやすいタイプが多く、流通量が一番多いのもこのタイプです。
「火入れ」をしてから貯蔵し、出荷前にはしないものを「生詰め酒(なまづめしゅ)」と呼びます。
こちらも一度「火入れ」をしているので、カドが取れた丸みのあるフレッシュさを持ちます。
「冷蔵保存」が基本です。
特に「生酒」は変化しやすくデリケートなお酒ですので、冷蔵が必須。
「生詰め酒」も出荷時に殺菌していないので冷蔵保存。
「生貯蔵酒」は出荷時に火入れしているので比較的保存はききますが、開けたら早めに飲みきるのがおすすめです。
おっしゃるとおり、常温保存できる「生酒」もあります。
それは非常に細かいフィルターで「ろ過」しているもの。
酵素などのタンパク質を除去できるので、品質劣化をおさえることができます。
そのさいに日本酒の成分も一緒に除去されてしまうためか、あっさりした味わいのものが多い印象です。
生酒と勘違いしやすいもの
一見すると「生酒」と勘違いしてしまいそうなお酒もありますが、これらは「生酒」ではありません。
日本酒は、普通は水を足してアルコール度数を調整してから出荷します。
そのさいに、水を加えないで出荷されるのが「原酒」。
アルコール度数も高く、非常に濃厚な味わいです。
原酒そのものに「火入れ」の有無は関係ありませんので「原酒=生」ではありません。
日本酒は、蒸米(むしまい)に酵母を入れて発酵させてつくります。
日本酒をつくるためには、大量の酵母が必要です。
その酵母をあらかじめたくさん増殖させたものが「酒母(しゅぼ)」。
この「酒母」は「酛(もと)」ともいわれ、雑菌などの混入をふせぐために「乳酸」が必要になります。
乳酸を人工的に添加してつくる酛は「速醸酛(そくじょうもと)」、自然界にいる乳酸菌を生成させてから酵母を加えてつくるものは「生酛(きもと)」と呼ばれます。
「生酛」は原料の呼び名ですので、できあがったものが生酒かどうかということには関係しません。
昔は、「桶買い」といってほかの酒蔵から日本酒を桶のまま買って、それをミックスして自分のところのお酒として売るということが多くありました。
それとは別に、単一の醸造所だけででつくられたお酒を「生一本(きいっぽん)」と呼び、区別してきました。
現在、酒税法上では「ひとつの製造場だけで醸造した純米酒」となっていますので、「生一本」と書かれているものはすべて純米酒です。
ちなみに「灘の生一本」が「生一本」の発祥であり、日本ではじめて原産地を証明したものだといわれています。
これも「生酒」ということには、まったく影響していません。
日本酒のフレッシュさを楽しむ
3種類ともに共通する特徴は「フレッシュさ」。
つめたく冷やして、さらっと飲むのにとても向いています。
暑くなってくるこれからの時期こそ、「生酒」を楽しむにはよいのではないでしょうか。